グローブ職人竹林孝三の「竹林講座」第3回、「グローブの型付け」
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第三回

〈当社流の型付け(再仕上げ)〉

当社の直営店「ベースボールショップサクライ」ではお客様のご希望に応じて型付けをいたしますが、”お湯”や”蒸し器”を使った湯もみ等の型付けはしておりません。
ではどういった型付けをするかといいますと、基本的には工場見学ツアーの終盤にある、”ハンマーマシン・指アイロン・木ハンマー”による仕上げを、

  • 捕球動作は親指主導か?、小指主導か?
  • どの部分を特に柔らかくしたいのか?(部位によって、ひも通しを調整しながら型付けを行えば、十分な効果がでます。)
  • 今は軟式野球だが半年後には硬式野球に移行するので、どちらでも使えるグローブにしたいのだが・・・。

などを考慮した上で、すでに工場で行った型付けを、個々のお客様に合わせて再調整しています。

なぜ、野球用品店や野球関連のホームページ上で良いとされている”お湯”や”蒸し器”を使った湯もみ等の型付けをしないかというと、その理由は3点あります。

  1. 一度なめしてからに変身した牛革の一番の敵は水分です。
  2. 当社グローブは”お湯”や”蒸し器”を使った湯もみ等の型付けをするまでもなく、「グローブの良い型の見極め方」でもご説明しました通り、”ハンマーマシン・指アイロン・木ハンマー”による仕上げ(型付け)を終えた状態で店にお届けしています。
  3. 当社グローブは一般市販品の「外骨格主義」の設計方法ではなく、「内骨格主義」を採用しておりますので、はじめから十分に使いやすい柔らかさと強度を兼ね備えています。

今回はこの3点について簡単にご説明いたします。

  1. 一度なめしてからに変身した牛革の一番の敵は水分です。

    この件に関しては私がご説明するよりも牛革の専門家のホームページを見ていただいたほうが正確です。

    兵庫県皮革産業協同組合連合会 http://www.hyota.com/teire.html#5
    こちらのホームページに「雨に濡れた革製品は」という内容があります。以下抜粋です。

    一般に皮革は水に弱いということを頭に入れておいて下さい。まず第一に、型くずれしやすくなること。なめしや製品化の過程で伸ばされたり収縮させられていた革が、水に濡れることによっていびつな伸縮をすることになります。そこで靴の場合ならシューキーパーで形を整え、できるだけ元の形を復元します。第二に、濡れると熱に弱くなるので、濡れた革をストーブに当てたりスチームアイロンなどでいきなり高温にして乾かすのは厳禁。タオルなどで叩くようにして水分を吸い取り風通しの良い日陰で陰干しして下さい。第三に、雨は革の栄養分である油分を奪いますので、必ずクリーム類で油分を補いましょう。

    昔よく聞いた話に、タンナー(なめし業者、なめし工場)の近くの河川が氾濫して水浸しになり、なめし終わってになった皮革が全部ダメになった。というものがあります。上記のホームページの内容はその経験に基づいたものだと思います。
    ”お湯”や”蒸し器”を使った湯もみ等の型付けは当然「水浸し」になる前のギリギリの段階で止め、皮革の繊維がほぐれたところを型付け(繊維を伸ばしきる)するものと思います。しかしこの”「水浸し」になる前のギリギリの段階”の判断は、とても難しく、一歩間違えばグローブをダメにしてしまう危険なものだと思いますし、グローブの中の羊毛フェルト等が水分を含んでしまえば、なかなか蒸発せず長期にわたって皮革を痛めつける可能性もあります。いずれにせよ、この「皮革にやさしくない」方法は当社では採用しないということです。

  2. 当社グローブは”お湯”や”蒸し器”を使った湯もみ等の型付けをするまでもなく、「グローブの良い型の見極め方」でもご説明しました通り、”ハンマーマシン・指アイロン・木ハンマー”による仕上げ(型付け)を終えた状態で店にお届けしています。

    この件に関しては「グローブの良い型の見極め方」を見ていただきたいです。内容を要約すれば、
    1:生産する前の型(型紙)が悪ければ完成後にいくら型付け(再仕上げ)を行っても無意味だということ。型付けしたときは良くても、翌日になれば元に戻ってしまいます。
    2:型付けとはよい型(型紙)が生産工程を積み上げることで自然に完成されていくものです。よって、良い型(型紙)であればハンマーマシンも指アイロンも使わず、軽く手で叩けば即完成となることも珍しくありません。型付け前にほぼ勝負はついているのです。
    3:何でもそうでしょうが、物事の本質とはそんなに単純ではないので・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

  3. 当社グローブは一般市販品の「外骨格主義」の設計方法ではなく、「内骨格主義」を採用しておりますので、はじめから十分に使いやすい柔らかさと強度を兼ね備えています。

    これが一番重要な理由です。”お湯”や”蒸し器”を使った湯もみ等による型付けで、大切なグローブをガンガン痛めつける必要はありません。
    「外骨格主義」とは当社以外のすべての市販品グローブが採用している方法だと思います。グローブの強度・耐久性を外骨格(グローブでいえば表の牛革)の硬さ・強さで実現しようとする方法です。その中のフェルトや芯材はあくまでそれをサポートする役割という考え方です。そのため皮革の繊維にあたる中心部分(芯の部分)を硬く仕上げて当初の硬さ・強さを保持します。少しずつならしながら段々と柔らかくなり、使いやすくなるのは、その皮革の繊維の中心部分が少しずつほぐれてくるからです。しかし、ほぐれの度合いはドンドン加速しますので、ほぐれすぎれば頼りなくなりその使命は終了します。(生き物でいえばカニ・エビが外骨格ですね)

    「内骨格主義」とは当社が10年位前から採用している手法で、外骨格=皮革は人間の皮膚と一緒で柔らかく強いものを追求し、グローブの強度・耐久性は今までグローブになかったフェルトや芯材を内骨格化することで、これを実現しようとするものです。よって、グローブが頼りなくなるのは内骨格が骨折したとき以外(2〜3年使用後稀にありますが、即修理できます)はあり得なく、長持ちするということです。(生き物でいうと我々脊椎動物が内骨格ですね)
    内骨格とは当社の特許、「親指革命」、「小指革命」のことです。
    この内骨格と外骨格の違いは耐久性だけではありません。もっと重要なことは外骨格は全身鉄兜みたいなものですから、硬くすべきところは簡単に硬く出来ますが、柔らかくすべき関節をつくるのが至難の業なのです。それに対し、内骨格は我々の体と同様、関節の内蔵は容易で、更に柔らかくすべきところは柔らかくでき、硬くすべきところも「親指革命」「小指革命」の装着により十分な硬さ・強さを得られます。

このように当社の「内骨格主義グローブ」は我々人類が急速に進化したのと同様、「耐久性があり、柔らかく機能的、強度が必要な部分は硬く・強い」と、基本的な性格を授かって生まれているのです。これが”お湯”や”蒸し器”による型付けといった特殊で、構成材料に無理を強いた型付けをしなくても良い一番の理由なのです。

私も50年この仕事をしていますが、「内骨格主義グローブ」はおもしろいです。何かが起きそうですね。

竹林孝三

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